ハンドリー事件その2】たった数冊のマンガが人生を狂わす
- Sun
- 11:54
- アメリカ
ハンドリーが所持していた漫画・アニメ等の内訳は関係者の証言によれば次の通り。
マンガ本……1,200冊以上
DVD,LD,VHS……数百本
パソコン……7台
文書他……数量不明
所持していた同人誌を含むマンガのジャンルは非常に広い範囲に及んでいた。ただしいわゆる”ロリコン漫画”は彼のコレクションに含まれていない(2008年11月にJennifer Vineyardはロリ物を含むとする記事を発表しているが、この点は否定されるべきだろう)。
これらのうち違法物件として指定された表現物は150~300件である。これは本やDVDそれ自体の数ではなく、マンガの1コマやDVDの1シーン(5分以下)を基準として算定されている。つまりコレクション全体からすると極めてわずかな比率しか違法物件が含まれていないわけである。
数少ない違法とされた物件のひとつがやおいマンガである(題名は不明)。ハンドリーの主任弁護士エリック・チェイスは「露骨なセックス描写が含まれていた。男性はきわめて中性的な外見で描かれているため実際よりずっと若く見える。陰毛がまったく描かれていないのも若く見える一因である。そのため捜査当局はこれを児童の露骨な性的行為を描いた猥褻物と断定したのだろう。しかし実際には彼らは子供ではない」と述べてる。
裁判記録を見てみると、被告側は上記のやおいマンガに限らず「争点となっているすべての未成年キャラクターは実際には全員成人であり、日本マンガの表現手法ゆえに若く見えるのだ」と主張している。
郵便小包に含まれていた「獣姦と女子児童への性的虐待を描いたマンガ」も違法とされた物件のひとつである(これも題名不明)。被告側がこれを未成年キャラクターではないと主張している点はすでに述べた。
いずれにしろ捜査当局が児童に関連する猥褻物件を300件以下しか証拠として指定できなかったという事は、ハンドリーのコレクションが(児童ポルノに関する限り)全体として驚くほど健全であったことを意味する。一般的に言って露骨な性描写を数多く含むロリ雑誌やロリ単行本はたった1冊で100~数百の違法とされる可能性のある描写を含んでいるのだから。
参考:代表的なものだけ示す
CBLDF To Serve As Special Consultant In PROTECT Act Manga Case
MTV's Splash Page "Neil Gaiman On The ‘Obscenity’ Of Manga Collector Christopher Handley’s Trial"
[6] CBLDFの声明
CBLDF(Comic Book Legal Defense Fund:コミック司法共助基金とでも訳すべきか)はコミック・マンガにおける表現の自由を守ることを目的として設立されたアメリカの非営利団体である。ハンドリー事件においても事件の初期からハンドリーに対して資金援助を含む裁判活動への支援を行っていた。
CBLDFは今回の司法取引について自サイトで次のような声明を出した。
CBLDF Disappointed By Guilty Plea in Handley Manga Case / 2009.05.21
(CBLDF、ハンドリー漫画事件の罪状認否に失望)
司法省の公式発表によれば、我々と面識のあるアイオワ州のマンガ収集家クリストファー・ハンドリー氏が児童への性的虐待を描いた猥褻図書の所持および猥褻物の郵送に関して罪状を認めた。
CBLDFは過去ハンドリー氏に対して法律上のアドバイスを提供してきた。司法省の発表によれば「ハンドリーには15年以下の懲役、25万ドル以下の罰金および3年間の裁判所による監視が科せられる」とある。加えて、彼は押収された物件の所有権をすべて失った。
CBLDFは昨年の10月からハンドリー氏の弁護活動のために特別な援助を始めた。限定的な役割しか果せなかったものの、我々は米国憲法の専門家との接触の手助けをし、マンガに関する専門的な知識を持った証人を推薦し、裁判の最終的な見通しに関する専門家の調査の費用を負担した。CBLDFは調査費用として2400ドルを支出し、専門家の証人の召致費用として1万5000ドルを負担した。
「当然のことながら我々はこの結果に非常に失望している。しかしならが、被告側としては最善の結果を得るためにやむなく決断しなければならなかったのだと我々は理解している」とCBLDFの執行役員チャールズ・ブラウンステインは語った。「この事件の事実関係は非常に特異である。だから我々としては先例としての影響力が最小限にとどまる事を願っている。とはいえ我々は似たような事件が将来発生する可能性にそなえ続けなければならない」
ブラウンステインはさらにこう付け加えた。「ハンドリー氏は今や自由と財産を失う危機に直面している。たった数冊のマンガ本を所持していたというだけの理由で。実にゾッとする話だ。CBLDFはこれからも発生するであろう脅威に対して断固として戦い続けていく。ハンドリー氏の事件は不幸な結末を迎えてしまった。しかしこの種の訴訟がなくなることはない。だからこそ、CBLDFはマンガ芸術に関する憲法修正第1条の権利(表現の自由)を守るための取り組みを断固として続ける」
ハンドリー事件は「仮想の未成年に見えるキャラクター」に法規制の網をかぶせようとする側にとっては勝利といえる結末となった。今後アメリカでこの事件が先例となって類似の摘発が行われるのかどうかは注目である。
…まだ終わらないので続きは次回。
参考:
CBLDF(Comic Book Legal Defense Fund)公式HP
米国司法省HP
Comment
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2009.05.24 Sun 20:34 |
情報楽しみにしています。
スペイン語も出来るのですか?
スペイン語圏に長期滞在したことがあるので、
それに関する情報があれば是非読みたいです。
ちなみに、現地で人気があったのは、
キャプテン翼とセイントセイヤでした。
日本では女性に人気があったアニメが当地では、
男性にも大人気ぽかったです。- #-
- 名無しさん
- URL
-
2009.05.25 Mon 22:41 |
スペイン語は現在リハビリ中です。ここ数年ほとんど使っていなかったのでもうボロボロ忘れていて泣けてきます。ずいぶん前に北米のあるアニメフォーラムの常連だった頃、ヒスパニックや南米の国の人たちに誘われてスペイン語のコミュニティに参加したのがスペイン語を始めたきっかけです。
実際キャプテン翼やセイント星矢はスペイン語圏では強かったですねぇ。メキシコやコロンビアやベネズエラでは男女を問わず見ていた人が多かったようです。今はご多分に漏れずたいていの国ではナルトが一番人気ですが…
> スペイン語圏に長期滞在したことがあるので、
> それに関する情報があれば是非読みたいです。
こっちこそ情報をいだけるとありがたいです。現地にはなかなか行けませんからね。
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