ハンドリー事件その1】米国司法省発表:ハンドリー、罪状を認める
- Sat
- 11:32
- アメリカ
この事件はアメリカの児童ポルノ規制法(正確にはUSC第18編第1466条A(b)(1))に基づいて実際に捜索・起訴された事件として注目されていた。
2006年5月にハンドリーは児童への性的虐待描写のあるロリ漫画を郵便小包で日本からアメリカへ取り寄せようとした。しかし米国税関(正確には米国移民税関執行局(ICE))の検査で発見された。司法当局の捜査によりアイオワ州の自宅で保管していた猥褻物件も捜索・押収された。翌2007年5月にハンドリーは大陪審により起訴された。
本年5月20日、ハンドリーは司法取引により2件の起訴事実(罪状)を認めた。
[2] 起訴事実
ハンドリーが認めた2件の起訴事実はこれ。
A. 起訴事実その1
USC第18編第1466条A(b)(1)により規定される未成年者の露骨な性的行為を描いたあらゆる形態の視覚的表現物の所持
B. 起訴事実その2
USC第18編第1461,1462条により規定される猥褻物の郵送
[3] 米国司法省の公式発表
最も基本的な資料であるアメリカ司法省による公式発表の全文を省略することなく翻訳する。
原文: Department of Justice / Wednesday, May 20, 2009 / #09-493
2009年5月20日 水曜
米国司法省
(202) 514-2007
TDD (202) 514-1888
アイオワ州の男、児童への性的虐待を描いた猥褻図書所持の罪状を認める
本日、クリストファー・ハンドリー(39才、アイオワ州グレンウッド在住)は児童への性的虐待を描いた猥褻図書[*訳注1]の所持および猥褻物の郵送について罪状を認めた。
裁判記録によれば、2006年5月米国移民税関執行局(ICE)は日本から米国に発送されたハンドリー宛ての郵便小包の開封検査を行った。郵便小包の中身は児童への性的虐待を描いた図書(特に、成人男性と動物から性的虐待を受ける未成年の女性を描いた日本の漫画)を含む猥褻物であった。
捜索令状に基づいて米国郵便捜査局(USPIS)はグレンウッドのハンドリーの自宅において児童への性的虐待を描いた猥褻図書の追加的な捜索および差押を執行した。アイオワ州南部地区の大陪審による審理の結果、2007年5月ハンドリーは大陪審により起訴された。
司法取引に基づいて、本日ハンドリーは児童への性的虐待を表現した猥褻図書の所持の禁止を規定する米国現行法律集(USC)第18編第1466条A(b)(1)違反の起訴事実を認めた。USC第18編第1466条A(b)(1)は未成年者の露骨な性的行為を描いたあらゆる形態の視覚的表現物(線画、漫画、彫刻、絵画を含む)の所持を禁止している。
またハンドリーは猥褻物の郵送の起訴事実も認め、すべての差押物件の没収に合意した。ハンドリーには15年以下の懲役、25万ドル以下の罰金および3年間の裁判所による監視[*訳注2]が科せられる(可能性がある)。
本件は司法省犯罪局児童搾取及び猥褻課の司法次官補Craig Peyton GaumerとElizabeth M. Yusiにより訴追される。本件は米国郵便捜査局(USPIS)・米国移民税関執行局(ICE)およびアイオワ州警察により捜査されている。また連邦捜査局(FBI)翻訳課は本件訴訟において重要な支援を行ってくれた。
*訳注1 猥褻図書(Obscene Visual Representations)…正確には猥褻な視覚的表現物。彫刻のような立体物も含む
*訳注2 3年間の裁判所による監視(three-year term of supervised release)…刑期の半分を務めた者は身元引受人の申請で保釈されるがその行動は裁判所の監視下に置かれる
[4] ロリ漫画等の単純所持禁止への突破口
本事件はいろいろな意味で注目に値する。
ハンドリーへの判決言渡しの期日がいつになるのかはまだ未定だが、このまま決着した場合「仮想の未成年キャラクターに対する性的虐待描写を描いた表現物(たとえばロリ漫画・ゲーム)」の単純所持を違法とする判例が確定する可能性が出てきた。
アメリカの最高裁は仮想の未成年の猥褻描写のある表現物に関する訴訟で規制に対して一応違憲判決を下してはいる……しかしこの判例の射程範囲(判決の効力が実際に及ぶ範囲)について学者や司法関係者の意見が一致しているわけではない。
アメリカにおいて現行法規のままで、仮想の未成年キャラに対する性的虐待を描いたマンガ・ゲーム・フィギュア等の単純所持を違法とすることへの突破口が開かれてしまうかもしれない。
長くなってきた…他の論点や海外での反応などは次回に紹介したい。
参考:
米国司法省HP
米国現行法律集(USC)第18編第1466条A
Comment
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2009.05.25 Mon 09:27 |
あの、「USC」って刑法典ですよね。
今回の事件は、所持していた作品が「わいせつ物」にあたるということで捕まったのではないですか?
「わいせつ物」のうち、18歳未満に見えるキャラを描写した作品は、そうでないものよりも刑が加重されるということなのでは。
- #-
- 通りすがり
- URL
-
2009.05.25 Mon 22:46 |
>>通りすがり
USCとはUnited States Codeの略で「米国現行法律集」あるいは「合衆国連邦法典」と訳されています。米国の全分野の現行法規を一つの法典に再編集して編・章・条・項を新たに付与したものです。
ここで全条文を検索することができる
http://www.law.cornell.edu/uscode/
> 今回の事件は、所持していた作品が「わいせつ物」にあたるということで捕まったのではないですか?
半分正しい。本件での主な訴追事項は2つ。
1) USC第18編第1466条A(b)(1)に規定する「未成年者の露骨な性的行為を描いたあらゆる形態の視覚的表現物の所持」違反。
これは児童ポルノ規制条項のひとつで猥褻物というだけでは適用対象とならない。あくまで未成年者の性的行為を描いた表現物であることが必要。
2) USC第18編第1461,1462条に規定する「猥褻物の郵送」違反
この条項の「猥褻物」は未成年者の性的行為を描いたものに限定されない。成文法および判例法により定義される一般的な猥褻物であると解釈されている
>「わいせつ物」のうち、18歳未満に見えるキャラを描写した作品は、
> そうでないものよりも刑が加重されるということなのでは
本件の場合はそうではない。USC第18編第1461条の加重事由として未成年者の性的描写を含むことによる刑の加重を規定する条文はない。ただし量刑の段階で考慮される場合はあるだろう。 -
2009.05.26 Tue 03:43 |
ご丁寧にありがとうございました。たいへん勉強になりました。
つまるところは、「わいせつ物」の郵送違反と、「わいせつ物にあたる児童ポルノ」の所持違反ということですね。
>USCとはUnited States Codeの略で「米国現行法律集」あるいは「合衆国連邦法典」と訳されています。米国の全分野の現行法規を一つの法典に再編集して編・章・条・項を新たに付与したものです。
いや、そうなんですけど、今回問題になった部分は、「刑法典」でしたよねということで。もし違っていたらすみません。
- #-
- とおりすがり
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-
2009.05.27 Wed 04:11 |
本件で適用されている条文は当然のことながらいずれも刑事法規で、またこれらの条文が含まれている元の法律もほぼすべて刑事法規で構成されているので広い意味では刑法典と言ってよいと思います。
- #-
- suzacu
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